このコーナーでは、在校生が書いた作文をご紹介していきます。
今回は、今年度のARCスピーチ大会で第2位となった学生のスピーチ原稿を掲載いたします。
留学生の私に「今」をくれた日本語
モウ ナン(中国)
「20年前から独学で日本語を勉強しています」そう言うと、「どうして今さら日本語学校で勉強するの」と聞かれることがあります。
実際、学校に入ってみると、初日に、私が「米国の米」の字を「美人の美」と書き間違えた時、「中国の留学生は、特に漢字の違いに注意してください」と先生が指摘してくれました。
その時、ここには教えてくれる人がいるんだと、小さな喜びを感じました。
それから毎日、一つ一つの字に意識を向けながら漢字を書いたり、辞書で単語の意味を調べたり、自動詞と他動詞の使い分けを勉強したりしました。
また、自分が作った文と自然な日本語との違いは何なのかを比較したりもしました。
そのうち、机の前に座って教科書とノートを開くだけで、自然に集中できるようになっていました。
さらに、読書をしている時に授業で学んだ語彙や文法と再会すると、学生時代に新しいことを学んでいたときの興奮を思い出しました。
ああ、勉強はこんなに楽しいんだ。私の心の中にひたひたと実感が湧き出てくるようでした。
気づけば、日本語の勉強はだんだん瞑想のようになり、・・それはゆっくりと時間が流れる落ち着いた毎日につながりました。
そんな日々の中で、ふと気がつきました。
出版社で働いていたころ、「結果を出せ」「もっと効率的に!」と言った上司の指示に従い、私はより早く作業を終えることばかりを考えていました。
いつの間にか、上司の期待に応える機械のようになっていて、日を追うごとに笑えなくなりました。
集中力も、好奇心も、言葉や文字への執着心も、すべてを失っていました。
そして、自分はいったいどんな人生を生きたいのかさえ、わからなくなっていました。
しかし、日本という新しい環境に身を置き、先生たちの日本語に対する情熱にふれると、自分にも意欲が湧いてきました。
話したい、伝えたい、何かの成果を残したい。
繰り返し練習を続けながら、一歩一歩前へ進みたい。
一つ一つの言葉を大切にしながら、日本語とともに歩んでいきたい。
もう二度とない「今」を大切にしたい。
もしまた「どうして今さら日本語学校で勉強するの」と聞かれたら、もう答えは、はっきりしています。
日本語が、私に「今」をくれたからです。

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